う飄々(仮)

いうてまじめやで。

色彩検定11級

 

やれやれ。

僕は電話がかかってくるちょうど5分前に、読み終わった本を本棚に戻し、そうつぶやいた。

 

どうもこんにちは。まだまだ猛暑が続きますが、体調など崩されませんよう気をつけましょう。具体的にはエアコンの電源をオンにしましょう。

さて、先日の話になるのですが、僕はついに新しいステージに進みました。ブックカフェで村上春樹の本を読んで過ごすという、普通程度の羞恥心が機能していようものなら土台できない相談であろう用件をクリアしてきたのです。しかもそのブックカフェとはまあお誂え向きにスターバックスなのです。カフェに隣接するブックストアで何を読もうかと本を物色する僕の目に飛び込んできた平積みの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。まさかね。と思いながらも1ページめくるともうそれだけであっさり読むことに決めてしまいました。断っておきますが、僕は村上春樹の書く本と村上春樹が好きです。この場合の「まさかね」は状況的なものです。スターバックス村上春樹の新刊はヤバイだろというまっとうな感覚を不肖私も持っていたのです。ただし持続しなかった。それが問題です。いやむしろ逆にありなんじゃないかという俗物根性と、今ある感覚の先を知りたいという一種の好奇心によって、気がつくと僕はチョコレートブラウニー抹茶クリームチップフラペチーノをオーダーしていました。村上春樹のベストセラー本を片手に。

 

もともと『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』には興味がありました。友人関係を絶った人間が主人公だと聞いたからです。かつて「絶交」などという言葉は吹き出さないでは口にできない言葉だと思って疑うところがなかったのですが、今は思うところもあり、また、絶交とまではいかずとも連絡を取らなくなった友人たちも少なくない状況でもあるので、それを村上春樹がどう書くかということに関心があったのです。

結果はどうだったのか。それを簡単に言えれば苦労しないよなどと言ってお茶にごすというようなことも、やぶさかでないといえばやぶさかでないのですが、あえてやぶさかに言うと、非常に近いが似ていない、ということになるかと思います。電車と駅が好きで新宿駅の人の流れと電車の流れを見るのが癒しになるという主人公の性癖には、正直ものすごく親しいものを感じました。村上春樹的にコンパイルされた5人グループの感覚というのも構成員が同じような感じということでは全然ないにせよ、どこか馴染みのある感覚でした。物語の筋とは関係ないところで泣きそうになるぐらい懐かしかった。

僕はある友人が言った村上春樹評を盲信して来ました。それは「なぜ村上春樹が売れるのかわからない」というものでした。彼自身は村上春樹が好きで、それにもかかわらずというか、そうだからこそ、『ノルウェイの森』があんなに売れるのはおかしいと、ほとんど憤慨しているような口調でつぶやいていました。当時の僕は、今以上に定見を持たない人間で、それに村上春樹がわからないと内心では思っていたものですから、手もなく彼の言い分を自分の中に容れて、そのまんまにしてきました。村上春樹が好きになってからも、無邪気といっていいほどの選良意識から、彼の意見をそのままにすることが都合よかったのです。というか、僕は『アンダーグラウンド』から村上春樹に入った人間として、あの本が村上春樹好きの間であまり話題に上らないことに苛立っていたので、その捌け口が必要だったのです。どういう姿勢で立っていればいいのかさえわからなくなったあの震災後、かつて『アンダーグラウンド』が書かれたことを知ったこと、当時の記録を読み返すことは自分にとって大きかった。

ところが今回の新刊を読んで、僕はこれは売れる本だと思いました。いま馴染みのある感覚を読みやすい平易な文章で書いている以上、読みたくなくても読めてしまうというものです。連絡を取らないでいるかつての友人が一人もいないなんていう人はほとんどいないと思います。所属感のあるグループから抜けたことのある人、グループが自然消滅したことのある人、過去の友人を「かつての友人」と言わなくては正確ではないと思ってしまう人、そんな人は100万人からいると思います。その人たちが求めればミリオンセラーは当たり前だと思います。

また、新刊にはグーグル、フェイスブック、ツイッターという文字が見られて、なんとなくいまだなあという感じを強くしました。今回はその感じがあるから、余計に、細かいところで似ても似つかないようなところに目が行くのです。近いけど似ていないというのはそういうところです。この本を読んで、そんなふうに感じたかつての友人たちを懐かしく思いだしました。あんなに近かったのに全然似ていなかった、というより、あんなに近かったからか。 あいつら元気かなあ。元気なんだろうなあ。どうでもいいけど

 

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)